所得税が払えない!払わないとどうなるのか
個人事業主の方・自営業を営んでいる方にとって、所得税の支払いは頭の痛い問題です。
所得税が高額になると支払いが苦しくなり、それが原因で事業が行き詰ってしまうこともあるからです。
もし、実際に所得税が払えなくなったら、どうしたら良いのでしょうか?
「所得税を払わないとどうなるの?」「払えない場合の対処法はあるの?」と気がかりな方も多いでしょう。
ここでは、個人事業主・自営業の方が所得税を払わない時のペナルティと、どうしても払えない場合の対処法を解説します。
1 所得税を払わないとどうなる?
所得税を払わなかったら、延滞の期間に応じて以下のような影響があります。
⑴ 延滞税を課される
まず、所得税を納期限までに払わないと、すぐに延滞税を課せられます。
延滞税は遅延損害金のようなもので、納期限の翌日から課せられます。
⑵ 財産が差し押さえられる
所得税の延滞をすると最初に「督促状」が送られてきますが、その後は電話や訪問で督促が行われ、それでも延滞が続いた場合、差し押さえのための財産調査が入ります。
その後、差押通知書が送付され、差し押さえ=強制執行が行われます。
差し押さえ対象となるのは、現金、預金、車、不動産の他、会社の設備なども対象となります。
生活に必要な家具家財、仕事道具(自営業者の場合)などは差し押さえの対象外なので、実際に持っていかれるものは限定的ですが、身の回り品以外で換価(売却して金銭に変えること)できそうな財産(高価なブランド品など)については差し押さえを覚悟しておいた方が良いでしょう。
なお、差し押さえとなったときに、『財産を隠しておけば良いだろう』などと考えてはいけません。
所得税の滞納に限らず、差し押さえを防ぐために現金や貴金属などの財産を隠した場合、「滞納処分免脱罪」となるおそれがあります。
⑶ 納税証明書が発行されない
この他にも、所得税を滞納すると納税証明書が発行されません。
納税証明書がないと銀行からの借り入れができないので、資金調達をしなければ事業の継続ができない場合は、経営に大打撃を受けることになります。
銀行によっては事業に関する融資を行う際に、納税資金も併せて貸し付けを行っている銀行もありますが、利息が非常に高いので負担は決して小さくありません。
2 所得税を払えない場合の対処法
延滞を放置してしまうと、税務署も強制執行(差し押さえ)までせざるを得なくなります。
どうしても延滞せざるを得ない事情があるときは、放置せず、できるだけ早く以下のような対策を取りましょう。
なお、所得税などの税金にも「時効」は存在していますが、税務署が時効成立まで何も行動を起こさないことは考えられないので、「時効を待って逃れようとする」「無申告のまま放置する」のは避けるべきでしょう。
⑴ 税務署に相談をする
所得税を払えないときの第一の相談先は税務署です。
「止むを得ない事情があるから払えないだけで、支払いの意思はある」ということを示すと、税務署はあらゆる方法を考えてくれます。
納税について誠実な態度で話し合いに臨めば、税務署は分納や支払い期限の延期に応じてくれるケースも多いようです。
誠実さを伝える上で大事なことは「できない約束はしない」ことです。
合意をしたのに約束が守られないということになると、税務署からの信頼を失うことになります。
逆に、正直に等身大の状況を伝えることで、担当者からの信頼を得やすくなります。
また、事情によっては税金の猶予や減免が認められることもあります。
税金の減免に関する制度は以下の通りです。
- ①納税の猶予
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税金を支払う意思があるものの、以下のような特別な事情によって支払ができない場合、原則1年間の分割払いを認めてもらえることがあります。
・地震、風水害などの災害
・盗難などの被害
・生計を共にしている親族の病気や負傷
・事業の廃止、休止、損失
・修正申告により税額が確定する
申請に際しては「納税の猶予申請書」を提出する必要があり、該当すると認められた場合は納付能力に関する調査が行われます。
その後、適当と認められれば正式に猶予が決定します。
その後は督促や差し押さえはなくなるので、精神的にも余裕ができることでしょう。
既に差し押さえになっている財産があるとすれば、猶予の措置により差し押さえ解除になる可能性もあります。
- 【延滞税の免除】
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納税の猶予が認められると、延滞税は免除されます。
延滞税は時間が経つほど増えていき、非常に重い負担となるので、免除が認められるだけでかなり楽になるでしょう。
- ②換価の猶予
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換価の猶予とは、差し押さえされた財産の換価を猶予してもらう制度です。
通常、差し押さえをされると財産は換価されてしまいますが、換価の猶予が認められると財産は換金されず、お金で分納することができます。
換価の猶予が認められるための主な要件は以下の2つです。
・納税する誠実な意思がある
・換価することで生活や事業の維持が難しくなる
上記に加えて、分納できる収入の有無も認可を左右します。
換価の猶予を希望する場合は、納付期限から6か月以内に税務署に申請する必要があります。
猶予の期間は1年間で、この間に分納をしなければなりません。
- ③滞納処分の停止
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「滞納処分」とは、税金が期日までに納められないときに差し押さえ・換価・配当の措置をとることです。
所得税が払えない場合、最終的に差し押さえ=滞納処分となりますが、そうなると生活が困窮する場合は、滞納処分の執行停止になることがあります。
また、差し押さえする財産がない場合も処分の停止を受けることができます。
滞納処分が停止されている間は、延滞税は免除されます。
停止期間が3年間続くと納税の義務は消滅します。
⑵ 全国商工団体連合会に相談をする
税務署に取り合ってもらえない場合は、全商連(全国商工団体連合会)に相談に行きましょう。
全商連は民商(民主商工会)の全国組織で、全国で約600の事務所を構えています。
全商連は中小零細企業の経営者をサポートする組織で、全国で約20万人の人が全商連に入会しています。
税金に関わる相談も受け付けており、所得税を払えない場合も相談すれば適切なアドバイスを受けることが可能です。
全商連の相談で助かったという自営業者は多く、猶予の申請の方法、申請書の書き方など、基本的なことからアドバイスを受けることができます。
⑶ 債務整理で他の借金を整理する
所得税以外にも負債があり、合計の借金の額が大きい場合などは、納税猶予などを受けても所得税の支払いに現実的な目途が立たない場合もあるかと思います。
その場合、支払いの猶予を受けると同時に、債務整理することを検討してみましょう。
所得税を含める税金は、債務整理をしても減免されることはありませんが、借金を整理することで収支のバランスを立て直し、所得税が払えるようになる可能性は高いです。
債務整理には主に、任意整理、個人再生、自己破産の3つの制度があります。
- ・任意整理
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大抵は将来利息をカットして、残りの元金の返済計画をリスケジュールします。
利息の支払いだけでも膨大な額になっている人にはおすすめです。
- ・個人再生
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任意整理より減額幅が大きく、借金は約1/5~1/10まで圧縮することが可能です。
住宅を手放すことなく借金を大幅に減額できる可能性があるので、マイホームを持っている人にとってはおすすめの選択肢と言えます。
- ・自己破産
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免責を受けることで借金を全額免除する制度です。
その代わりに財産は、換価、配当されることになります。
自己破産をしても所得税の支払い義務はなくなりませんが、所得税滞納の場合、差し押さえする財産がない場合は滞納処分の停止となり、以後3年間状況が変わらなければ納税の義務は消滅します。