万引きにおける示談を弁護士に依頼する重要性
「出来心で万引きしてしまった」「ダメだと分かっているのに、万引きをやめられない」「何度も万引きを繰り返していたら、実刑判決になる?」
このような万引きに関するお悩みは、日々弁護士事務所に寄せられます。
万引きをすると「窃盗罪」となって逮捕される可能性がありますし、悪質な場合には、裁判で実刑判決を受ける可能性もあります。
もしも万引きしてしまったら、なるべく処分が軽くなるように、早急に被害者と示談を成立させることが重要です。
今回は、万引きで示談が重要な理由と示談を進める方法をご説明します。
1 万引きすると「窃盗罪」
そもそも、万引きをしたらどのような犯罪が成立するか、ご存知でしょうか?
⑴ 万引きは窃盗罪
万引きは「窃盗罪」です(刑法235条)。
窃盗罪は、他人が持っている(これを法律上「占有」といい、「占有」しているとは、誰かの支配下にある状態を広く指して使われています)ものをこっそり取る犯罪行為です。
本やスーパー、コンビニの商品などを万引きするとき、通常は店の占有下にあるものを自分のポケットやかばんなどに入れてこっそりと取っているので、窃盗罪の要件を満たします。
⑵ 万引きの刑罰について
万引きで窃盗罪が成立したらその法定刑は、「50万円以下の罰金または10年以下の懲役」となります。
(なお、2025年6月1日からは懲役と禁固が一本化され拘禁刑となります。)
2 万引きで逮捕された場合の量刑
万引きが見つかって逮捕されたら、実際に適用される刑罰はどのくらいになるのでしょうか?
⑴ 多くは罰金刑
万引きは、窃盗罪の中でも軽く処分されることの多い犯罪です。
計画性がなく被害額も少額で比較的悪質ではないケースが多いためです。
初犯であれば不起訴処分にしてもらえるか、起訴されても罰金刑で済むケースが多数です。
⑵ 繰り返すと実刑になることもある
ただし、万引きは、再犯率が高く、「繰り返される」傾向のある犯罪です。
何度も万引きで逮捕されているとだんだんと適用される刑罰が重くなっていきます。
最初は不起訴にしてもらえても、その後も犯行を重ねた場合には、略式裁判で罰金刑となったり、通常裁判になったり、最終的には執行猶予もつかずに実刑になってしまうこともあります。
⑶ 万引きと微罪処分
刑事手続には「微罪処分」というものがあります。
微罪処分とは、犯行内容が極めて軽微なケースにおいて、警察官が検挙後に検察官送致せずに釈放する処分です。
微罪処分にしてもらえると、万引きで逮捕されても、48時間以内には釈放してもらえるでしょう。
微罪処分として釈放してもらいやすいのは、以下のような軽微な事件です。
- ・被害が軽微
- ・犯行に及んだ事情が悪質ではない
- ・被害回復が行われている
- ・被害者が処罰を望んでいない
- ・偶発的な犯行
万引きでは実際に微罪処分にされるケースも多いので、検挙されても前科がつかない可能性もあります。
3 万引きの現行犯逮捕と後日逮捕
万引きのもう1つの特徴として、「現行犯逮捕」されるケースもあることが挙げられます。
本屋やコンビニなどで商品をとったところを店員や他の客に見つかって警察に通報されたりします。
ただし、近年では監視カメラの発達により、万引きの後日逮捕事例も増加しています。
監視カメラに顔が写っていて警察の捜査の手が及ぶケースもありますし、店員が犯人の顔を覚えていて次に来たときに取り押さえられるパターンもあります。
万引きしてその場で見つからなかったからといっても安心できません。
4 万引きで重要な示談・被害弁償
万引きしたときには被害者との「示談」や「被害弁償」が非常に重要です。
以下では示談と被害弁償がそれぞれどのようなことか、ご説明します。
⑴ 示談とは
示談は、不法行為の加害者と被害者が損害賠償などについて話し合い、解決することです。
窃盗罪も1種の不法行為ですので、加害者は被害者に対して損害賠償をしなければなりません(民法709条)が、具体的にいくらの賠償金をどのように支払うかを決める話し合いが示談交渉です。
示談が成立したら、加害者は被害者に「示談金(損害賠償金)」を支払い、トラブルを解決します。
⑵ 被害弁償とは
被害弁償とは、加害者が被害者へ損害賠償を行うことです。
示談が成立したら、加害者は被害者へ示談金(損害賠償金)を払うので、被害弁償することにもなります。
ただ、示談が成立しなくても被害弁償が行われるケースもあります。
たとえば、被害者が「加害者を許さないので示談しない」と言っていても、加害者が被害者名義の口座にお金を振り込んだり現金書留で賠償金を送ったりしてお金を渡すことも考えられます。
全額の賠償ができないので示談は困難でも、一部だけ被害弁償するケースなどもあります。
この場合、示談が成立したわけではありませんが、被害弁償は一部行われたことになります。
⑶ 示談も被害弁償も万引きの刑を軽くするために重要
示談も被害弁償も、万引き犯の刑を軽くするためには非常に重要です。
刑事事件では、被害者へ被害弁償を行ったことや被害者と示談が成立していることが、被疑者にとって非常に有利な事情になるからです。
たとえば万引きが見つかっても被害額が少額で被害者へきちんと被害弁償できたら、微罪処分としてすぐに釈放してもらえる可能性が高くなります。
検察官の元へ送られても、早期に被害者と示談できれば不起訴処分にしてもらえて前科をつけずに済む可能性が高くなります。
万引きを何度も繰り返していて通常の刑事手続で起訴されてしまったときにも、示談ができたら執行猶予をつけてもらえる可能性が高くなります。
このように、被害者との示談を成立させれば処分を軽くしてもらえる可能性が高いので、万引きが見つかったら速やかに被害者と示談交渉を開始したほうがいいでしょう。
5 万引きで示談を進める方法
では、万引きをしてしまったとき、どのように被害者との示談を進めていけば良いのでしょうか?
その場で発見された場合には、すぐに店主や店員に謝り、商品を返しましょう。
対応が後日になった場合、まずは被害者に謝罪の連絡を入れます。
示談するには被害者に許してもらう必要があります。
万引きは1回だけなら微罪になりやすいのですが、何度も繰り返したり高額な商品をとったりすると責任が重くなり、被害者からも許してもらいにくくなります。
許してもらうためには「誠意」を見せることが重要です。
今までの素行を深く反省し、もう二度と万引きしないと誓っていると伝える必要があるでしょう。
場合によっては、家族もいて普段は真面目に働いており、今回はふとした出来心だったなどの事情を話したりして、理解を求めましょう。
このようにして被害者を説得し、被害弁償の金額などについても合意できたら示談が成立します。
口約束では証拠が残らないので、示談書を作成して加害者と被害者双方が署名押印をしましょう。
6 万引きで示談を弁護士に依頼する必要性
万引きの被害者と示談するときには、弁護士に依頼するとスムーズに進みやすくなります。
その理由は以下の通りです。
⑴ 被害者が感情を抑えやすい
万引きは性犯罪などと違い、比較的示談を進めやすい類型の犯罪です。
そうはいっても、被害者が加害者へ強く立腹しているケースも珍しくありませんし、「示談するより厳罰を適用してほしい」と望む被害者もいます。
そういった被害者でも、加害者側に弁護士がついている場合には、加害者本人を目の前にして交渉しなくても済むため、多くの場合、気持ちを落ち着けて冷静に対応することができます。
また、弁護士が示談を受け入れるメリットを説明して説得し、結果、示談に応じてもらえるケースも多々あります。
⑵ 弁護士が交渉することで妥当な条件を定めやすい
示談の際には「示談金をいくらにするのか」も重要です。
一回きりの万引きならそのときの被害弁償をすれば良いだけですが、余罪がある場合には、別の機会に盗んだ物も含めた被害弁償をしないと、示談に応じてもらえないこともあります。
被害者から過大な賠償金の請求をされて加害者が困惑するケースもあります。
弁護士がついていたら被害者による無茶な請求を抑え込み、支払い可能で妥当な範囲の賠償金額で合意できる可能性もでてきます。
⑶ 示談が困難なケースにも対応可能
ひと言で「万引き」とは言ってもケースによって状況は異なります。
被害者が激しく立腹していて示談が困難な場合、余罪が多い場合、前科が多数ある場合、精神病が原因で万引きをやめられない場合などでは、自分達だけでは対応が難しくなります。
そのようなときでも弁護士がついていたら状況に応じた適切な対応を進め、被疑者に及ぶ不利益を最小限にとどめることも可能です。
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